ファーザーという映画ご存知ですか?
羊たちの沈黙でレクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスが主演。
タイトルにホラーと書きましたがホラー映画ではなく、これは認知症体験型の映画。
唯一の肉親である娘のアンは献身的に介護するも、自身の再婚と引っ越し、そして度々介護人とトラブルを起こす父を持て余し、老人ホームに入居させることを決意する。
そこからストーリーは始まる。
アンソニー目線だと、ある日いきなり見たこともない中年男性が家に座っており、自分はアンの夫で結婚して10年になるという。
戸惑っている時にアンが帰宅したかと思えば、アンとは似ても似つかない容姿をしている。
そしてその見知らぬアンが男にチキンを手渡したはずなのに、チキンを持った中年男性はキッチンからそのまま突然消える。
今度はまた知らない男が突然現れて「いつまでイラつかせるつもりだ」と急にビンタされる。
介護人を名乗る女性は下の娘ルーシーに似ていて気に入った、と思ったのに全く別の介護人が現れる。
そういえばルーシーはどこいった?
アンは結婚して引っ越すと言っていたのにそんなこと言ってないと言う。
気付くと家具の配置も変わってる。
ここは自分の家のはずなのに。
見てるこっちもわけがわからないし、????って混乱するんだけど、多分それこそが認知症。
時系列はもちろん、話者と内容それぞれがバラッバラで、なにが本当で誰を信じたらいいのかわからない。
めちゃくちゃコワイ。だれ?なに?え?の連続。
映画ではアンソニー目線と娘のアン目線と混じってるかんじなんだけど、アンからしたらアンソニーは介護人に失礼な態度を取ったり、自分の置き忘れなのに「盗まれた!」と騒いだり、もう亡くなってる姉のルーシーを褒めたり、いい気がしないシーンが多い。
それこそ老害ジジイめ!と思ってしまうような立ち振る舞い。
実際、アンは追い詰められてアンソニーに手をかける妄想に至ってしまう。
この映画のすごいところは、アンソニーホプキンスの演技がうますぎて…の一言。
イヤなやつと思わせてくるのに垣間見えるチャーミングさもあり、哀愁もあり、やり場のない気持ちになる。
最後は老人ホームに入るんだけど、看護師と会話の流れで母親を思い出して子供のようになって泣いてしまう。
もうそのシーンとか胸が締め付けられる。
アンソニーからしたら老人ホームなんてイヤ!家に帰りたい!ってかんじなんだけど、見てるこっちは清潔で設備も整ってて、みんな優しいしプロだし、良さそうなところに見えてしまう。
客観と主観のズレを如実に感じた。
まあそんなこと言っても入れるしかないんだけどさ。
自分がアンの立場になるかもしれないし、それ以上にアンソニーの立場になったら?と思うとめちゃくちゃ怖い。
誰にでも起こりうることだけど、それを体験したことがないからどうなるかはわからない、というのを体験できる映画。
この映画のアンソニーは多分重度の認知症だとは思うんだけど、認知症の人はこんな怖い気分なのかな…としんみりしてしまう。
とはいえ、わりとあっさりしてるし、意外と暗い雰囲気はあまりないのでオススメです。
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